最前線からのインバウンド新常識!
“観光戦国時代で勝つ”
株式会社ノットワールド 河野有

第1回 ココが変だよ!地方創生

今回を皮切りに、 [最善からのインバウンド新常識] と題しまして1年間、12回のコラムを担当させていただく、株式会社ノットワールドの河野有です。
インバウンドの現場から見た現在の観光による地方創生は“???”となる事があまりに多いので、少しでも皆様のためになればと思い、日々弊社メンバーで討論している内容を、12回シリーズで書いて参ります。

今後の予定は、

  • 現在の地方創生に関する疑問や提言:3回
  • コンテンツの作り方や磨き方:2回
  • ガイド・接客の心得:2回
  • プロモーション:1回
  • 読者の疑問にお答え・未来の旅行を考える:3回
  • まとめ:1回

〜内容〜

[1] インバウンドの盛り上がりと地方創生

昨今、新聞で観光・訪日外国人の事を目にしない日はありません。日本としては、数少ない成長業界で、多くの人の注目分野であることは間違いないですし、人口が減少している日本では、海外から旅行者を呼び、消費を増やして経済を好転させる事は国策でもあります。いろんな自治体が観光客を呼ぶ込むための施策を考え、多くの企業が新規事業としてインバウンドを担当する部署を作り、自治体の補助金を狙うためのコンサルティング会社が乱立してきています。

そんな観光戦国時代ですが、我々はこう思っています。『インバウンドは、生半可な気持ちでは絶対に立ち上がらないし、儲からない。』と。地域の多くの施策や、補助金(税金)の使い道もいろいろ見てきましたが、基本的にもったいない使い方があまりにも多い!!

 

 

こんな人、どこかで見たことありませんか?

  • インバウンド新規事業部担当なのに、旅行経験がほぼない人(国内も海外も)
  • 観光のことは大手旅行代理店に聞けばなんとかなると思っている人
  • 外国人が喋る事は何でも正しいと、信じて疑わない人
  • イケてるビデオを作れば、勝手に拡散して観光客が来ると信じてる人
  • インバウンド担当なのに“〇〇人はマナーが悪い”と、決め込んで心を閉ざす人
  • あちこちで話している有名人にお願いすれば、その人が解決してくれると思っている人、など。

自治体組織という観点から見れば、こんな感じでしょうか

  • ゲストのことを知らないため、何がゲストの価値かがわからず、自分たちのエリアの強みも見えていない
  • 単年度予算のため、長期的視野で計画を立てられていない(予算の消化が目的になってしまっていて、それっぽい報告書さえあれば満足してしまう)
  • 観光の立ち位置があからさまに経済と比べて低い
  • 区とか市といった小さいエリアで考えるため、横の連携が取れていない、など。

いかがですか?観光立国を目指すと言いつつも、これではまだまだ道は遠いと言わざるをえません…

 

 

ここに掲げた人や組織が、全て間違っているという気はありません。肝心なのは、人にまかせっきりになるのではなく、常に自分たちなりの仮説と視点を持ち、その施策が果たして本当にゲストに効果的か、また、そのお金を使う責任を自分が負えるかと考え続ける、「自分ごと化」が必要だと思うのです。

もったいない例として、『外国人目線で魅力を発見する』とは、巷でよく交わされる言葉ですね。すごく大切な視点ですが、外国人なら誰でもいい、というわけではないと思います。モニターツアーと称し、地方の魅力発見のためにお金をかけ、いきなり外国人を地方に連れていきます。日本慣れしていない外国人からすれば、例えば“とある酒蔵”を見ただけでワンダフル!と言うはずです。その内容を真に受け、これならゲストが来るぞ!と、自治体がビデオを作成し、広告を打って拡散したとします。ただし、日本全体を見るとどうでしょう…酒蔵なら東京から1時間も行けば見られるし、京都ならさらに身近。日本を知らない外国人からすれば、それこそ何でも珍しい。ツアーは無料の上、お金までもらって参加するので、とかくワンダフル!と言いがちです。周辺と比べて魅力があるのか確認しつつ、その辺を割り引いて考えないと、非常にもったいない事になります。

ゲストに効果的な施策を考えるには、まず自分の住む地域の魅力を丹念に調べ・考えることです。その際、既に来ているゲストの声や内外の声にも耳を傾け、情報収集を欠かさないこと。色んな意見を注意深く聴き、かといって振り回されることなく、仮説と検証を繰り返しながら、ゲストに刺さる魅力を編み出すことです。このプロセスを省くと、どこか底の浅い、うすっぺらな謳い文句がおどるだけの観光地ができてしまいます。これでは時間とお金の無駄使い。日本には今、インバウンド観光という、いい流れが来ています。このチャンスを逸することないよう、地域の魅力化に真剣に取り組むべきです。

「いい流れ」に関して言えば、ラグビーW杯(2019年)からオリンピック(2020年)までを、インバウンド観光のピークと考える方の何と多いこと。誤解を恐れずに言えば、ラグビーW杯もオリンピックも、決してピークなどではありません!今からたった1年半後にピークが来るという考え方よりも、これをいいきっかけにして10年後、20年後へとつながる観光ビジョンを、今から描くことです。ラグビーW杯もオリンピックも通過点。そう考えて前向きに進む方々に、ひとりでも多くお会いしたいです。

[2] 観光で社会問題を解決したい

世界では現在、富の一極集中や紛争問題、ナショナリズムの台頭など、様々な問題が出てきています。課題先進国と言われる日本においても、多くの社会問題があり、地方の問題も山積みです。我々は、観光がそれらの問題を解決する、大きな可能性を秘めた分野だと信じています。そして、観光の持つチカラで少しずつ、社会問題を解決していきたいと考えています。

 

 

そもそも観光は平和産業。平和でなければ旅行はできません。そして旅行先でその国の事を知り、そこで暮らす人と話すなど、多様性に溢れた価値観を共有する事で、少しずつ器が大きくなります。日常生活でさらに世の中に付加価値を与えられるよう努力し、より平和な世の中になっていきます。我々のメンターの方は、よくこう言います。“旅行は相互理解と世界平和に繋がる”と。まったくその通りだと思います。

世界中にインターネットがくまなく浸透した今、観光は“量”ではなく“質”で勝負する時代です。観光戦国時代では、これまでのビジネスモデルも大きく変わりつつあります。例えば、

  • 個人旅行者がメインとなりつつある今、旅行代理店からのゲストをただ単にこなしているだけでは、今は良くても5年後は厳しくなる
  • 大人数向けのバスツアーのガイディングをそのまま個人旅行者ツアーに当て込むと、ゲストが楽しめない。スマートフォンの普及により、Googleに書いてある事だけをしゃべるガイディングの価値は落ちてきている
  • 情報に誰でもアクセスできるようになったため、上手に発信する事で、お金がなくても、しっかりゲストに情報を届ける事が出来る
  • 来ているゲスト一人ひとりに発信力があり、彼らが感じたことがメディアを通じて増幅していく

自分たちの旅行を、そのまま振り返るとわかりやすいですね。旅先でどんなことがあったらSNSにアップしていますか?過去にどんなツアーが記憶に残っていますか??
大きな変革の時だからこそ、楽しみながら努力し、新しい時代の観光を一緒に作っていきましょう!

[3] 観光地の立ち上げに必要な要素

最後に、私どもが考える「観光地の立ち上げに必要な要素」について簡潔にお伝えいたします。(次回以降で詳しく解説していきます)

観光地の立ち上げに必要な要素

  1. コンテンツ(情報・商品)
  2. デリバリー(伝達)
  3. プロモーション(発信)

必要な要素の時系列な視点

  1. 商品のしっかりとした作りこみ
  2. 作り込んだ商品を楽しく伝達する
  3. 楽しんだゲストが自分自身の持つ拡散力で評価を発信し、次のインバウンドにつなげる

上記の流れが積み重なると、ものすごい力になります!!逆に①②で失敗し、③で残念な評価を発信したら…。考えただけで怖くなりますね。例えば、とある飲食店をゲストが訪れ、日本語のチケット購買機の前で困っているとしましょう。店舗スタッフも忙しく、面倒だからと未対応のまま。終いに途方にくれたゲストは、店舗を出てしまいます。この店舗、購買チャンスを逸したばかりか、もしかしたら、ゲストがSNSから拡散する悪評に悩まされることになるかもしれません。こんなことになってはもったいない。

 

 

最後に、集合場所でゲストと接している際によく聞く話をご紹介します。
日本にきて、びっくりした事は何?”という問いに対して、
“いろいろあるけど、そうだなぁ、人がめちゃくちゃ優しい事!道で困っていたら、日本中どこへ行っても助けてくれたよ!自国じゃ絶対ありえないよ”
日本人として誇りに思うとともに、ピリッと気が引き締まる思いです。何故かと言えば、優しさだけが日本の価値ではないと思うからです。日本の旅を楽しみ、好きになり、リピーターになった外国人が感じている、日本の価値とは何か。外国人の目線で、日本の良さを考えてみることはとても大切です。日本の本当の良さを、ひとりよがりにならず、外国人(ゲスト)の目線で常に考え続けること。インバウンド観光の立ち上げの秘訣は、コレに尽きると思います。
これから1年、いろんな角度から日本の観光を掘っていきます。よろしくお願いいたします。

以上

※第2回の掲載は2019年1月9日頃を予定しています。サイトの新着情報欄やPICKUP欄で公開をご案内いたします。

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・執筆者:河野 有、ノットワールドについてはこちら